一年ぶりのソウルにて

 修士課程卒業の学年になり、いよいよ論文に向けて慌しくなってきたのだけれど、半年以上前から声をかけてくれていた韓国人の友人の結婚式に参加するために、先月末に二泊三日でソウルを訪れた。ほぼ一年ぶりのソウルで、今回が二回目になる。

 

 実はソウルに訪れる前に急用で日本に帰ることになり、それに加えてこの数ヶ月間は大なり小なりの膨大な作業に追われ続けていて、ゆっくり韓国に行こうという気分にはあまりならなかった。けれども、とても素晴らしい結婚式だったことに加えて、友人のご家族の方の温かい歓待もあり、心からリフレッシュできた三日間を過ごせた。友人家族には改めて感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

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 結婚式の前日はフリー観光にあてることにした。去年訪れたときに主要な博物館はまわったので、今回はサムスン美術館Leeumに来た。伝統芸術と現代アートの両方が観られるという以外は何の情報もいれずに行ってみたのだけれど、とても印象に残る素晴らしい美術館だった。

 

 

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 入り口には、宮島達男のデジタル・カウンターのインスタレーションがあり、それに誘われるように半地下に広がる美術館へと入っていく。伝統芸術のコーナーには、主に高麗時代以降の文物(陶磁器、仏教美術、水墨画など)がおさめられていて、どれも保存状態がよく、解説も充実していた。特に陶磁器などをみれいると、大胆に唐草模様が描かれいるものが多くみられるのが印象的だった。日本よりも圧倒的に朝鮮のほうが中華の強い影響下にあるということが、暗に示されているように思えてならなかった。

 

 また仏教美術のコーナーで、半跏思惟像などの仏像が並べられている一角に、ひとつだけぽつりとジャコメッティの作品が置かれているのをみて、そのキュレーションに鮮烈な印象を覚えた。(検索 | サムスン美術館リウム) それは、ジャコメッティが極めた人間造形へのあくなき探求と、理想のブッダ像を追い求めた古代の仏教芸術家たちの切実な祈りが、時間と場所をこえて精神の深いところで邂逅を果たしたような、一種の劇的な衝撃だった。

 

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 現代アートのコーナーでは、好きなナムジュンパイクの作品を観ることができたのも良かった。(Nam June Paik | My Faust-Communication (1989-1991) | Artsy)  「My Faust Communication」と名づけられた作品は、ドイツの城を模した枠のなかにおなじみのテレビ画面がいくつもつまれ、そこにファウスト伝説の映像が延々と流れるというものだった。ファウスト伝説に出てくる悪魔メフィストフェレスは、この世界の美しいものから醜いものまで、すべてを見せるためにファウスト博士を時空間をこえた旅に連れる。ある意味では、当時のテレビメディアも、現代のインターネットメディアも、メフィストフェレス的なものだと言えるだろう。メディアの功罪を、ファウスト伝説にのせて提示する様はとても鮮やかだった。

 

 他にもたくさんの韓国の現代アートを見ていて思ったのだけれど、自身のルーツの探求を感じさせる作品が多くあるように感じたのが印象に残った。朝鮮半島の歴史の複雑さがあるのはもちろん、戦争と日常生活の近さが、日本とは比べられない程度なのだと思う。自分たちが今生きているこの現実は、どのようにして成り立っているのか。そのような問題意識を感じさせる作品が多かったように個人的には感じた。

 

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(サムスン美術館のあるハンガンジンというエリアは、日本の表参道のような、丘の上にある高級なところだった。近くのメインストリートにはハイブランドのお店もならんでいた。)

 

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 夜は、この夏のサマープログラムで知り合った、現在韓国で留学している日本人の友人と約二ヶ月ぶりに再会することができた。彼女の案内のもとで、徳寿宮を訪れた。

 

   市庁駅(シチョン駅)で待ち合わせをし、地下鉄をあがると右翼的な政治団体が大規模なデモをしていた。ムン大統領の顔写真の上に大きなバツ印がついたプラカードを掲げながら、南北統一の反対を唱えているようだった。デモに参加しているほとんどが50代以上の人々だったのが印象的だった。世代的な理由も何かあるのだろうか。大音量で流れる軍歌のような音楽を背後に僕たちは徳寿宮に入っていった。

 

 大韓帝国時代に着工がはじまった古代ギリシア風の建築物や、中華文明の影響を感じさせる宮殿がある、ゆったりとできるところだった。風がふくと肌寒かったけれど、暖かい日差しのなかでのんびりと談笑しながら、ふたつの建物をゆっくりと見学した。日本ではまだ本格的な秋の訪れる前で、北京はもう随分と寒くなってしまったので、ソウルで秋の空気を存分に感じることができたのが本当に良かった。

 

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 夜は徳寿宮から歩いて景福宮の前を通り過ぎ、近くにあるサムゲッタンのお店で晩ごはんを食べた。冷えた身体にサムゲッタンの薬膳スープがしみて、とてもおいしかった。

 

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 韓国は中国に似ているところと日本に似ているところの両方が入り混じっていて面白いなといつも思う。たとえば、ITに対する感覚は中国にとても似ているけれど、部屋で床にそのまま座ったりするところは日本と似ている。ご飯屋さんの多さも中国に似ているけれど、カフェ文化は日本に近いものがある気がする。伝統的な芸術などは圧倒的に中華の影響を受けていて、現代的な暮らしでは日本に似ている趣向があるのだろうか。

 

 結婚式のことも書きたかったけれど、ここまでで随分と文字数を費やしてしまったので、いったんここで止めておこうと思う。韓国はこれからも何度も訪れたいな。

 

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